主な特徴

HAYNES® Waspaloy合金(UNS N07001)は、約1800℉(982℃)までの温度で非常に良好な強度を持った時効硬化型のニッケル基超合金です。この合金は、ガスタービンおよび航空宇宙用の鍛造及び加工部品用の鍛造材料として広く使用されています。その強度は、一般にHAYNES® R-41合金に匹敵し、1200-1300℉(649-704℃)を超える温度では718合金の強度よりも優れています。 Waspaloy合金は、アニールした状態では冷間成形することができ、1900℉(1038℃)以上の温度で熱間成形することもできます。溶接性は、重度に拘束された条件下ではひずみ時効割れを起こしやすいために幾分制限されます。この合金は、約1600℉(871℃)までの温度でガスタービンの燃焼環境に対して良好な耐性を示します。Waspaloy合金は、HAYNES® 282®合金が優れた加工性とクリープ強度を有していることにより、今では多くの用途でこの合金に置き換えられています。

*この合金に関して技術的なご質問がある場合は、当社の技術支援チームにご連絡ください。

標準組成

重量 %
ニッケル (Ni) 58 Balance
コバルト (Co) 13.5
鉄 (Fe) 2 max.
クロム (Cr) 19
モリブデン (Mo) 4.3
アルミニウム (Al) 1.5
チタン (Ti) 3
炭素 (C) 0.08
マンガン (Mn) 0.1 max.
ケイ素 (Si) 0.15 max.
ホウ素 (B) 0.006
ジルコニウム (Zr) 0.05

熱処理

HAYNES® Waspaloy 鍛造合金は、特に指定されない限り、溶体化処理した状態で提供されます。部品加工した後、この合金は通常、最適な特性にするために 1950~2000℃(1066~1093℃)で断面厚さに見合った時間保持して再溶体化処理され、急冷又は水冷されます。溶体化処理に続いて、ミクロ組織を最適化して時効硬化させるために、この合金は3-ステップの時効硬化処理を施されます。第1ステップは1825℉(996℃)で2時間保持して空冷します。第2ステップは1550℉(843℃)で4時間保持して空冷します。最終ステップは1400℉(760℃)で16時間保持して空冷します。

耐酸化性

静的酸化試験

周囲環境 : 空気流
試 験 時 間 : 1,008 h
試験サイクル数 : 6
サイクル時間 : 168 h
温度 : 1600, 1700, 1800°F (871, 927, 982°C)
メタルロス = (A-B)/2
平均内部酸化深さ = C
最大内部酸化深さ = D
平均酸化層厚さ = メタルロス + 平均内部酸化深さ
最大酸化層厚さ = メタル口ス + 最大内部酸化深さ

空気流中での耐酸化性比較(1,008時間)

合金 1600°F (871°C) 1700°F (927°C) 1800°F (982°C)
メタルロス 平均酸化層厚さ メタルロス 平均酸化層厚さ メタルロス 平均酸化層厚さ
mils μm mils μm mils μm mils μm mils μm mils μm
263 0.1 3 0.4 10 0.2 5 0.7 18 0.9 23 5.0 127
282® 0.2 5 0.6 15 0.1 3 1.1 28 0.2 5 1.8 46
R‐41 0.2 5 0.8 20 0.2 5 1.5 38 0.2 5 2.9 74
Waspaloy 0.3 8 1.4 36 0.3 8 3.4 86 0.7 18 5.0 127

動的酸化試験(バーナーリグ試験)

バーナーリグ試験では、0.375 in x 2.5 in x 特定厚さ (9.5mm x 64mm x 特定厚さ) の複数の試料を回転する保持装置に取付け、燃料油 (No. 1燃料油:2、No. 2燃料油:1の混合油)を約50:1の空燃比で燃焼させてできる燃焼ガス中に曝します。燃焼ガスの流速は、マッハ数が約0.3です。試料は30分毎に自動的に燃焼ガス流から取り出され、ファンで 500°F (260°C) 以下に冷却された後、燃焼ガス流中に戻されます。

合金 1600°F (871°C), 1000時間, 30分サイクル 1800°F (982°C), 1000時間, 30分サイクル
メタルロス 平均酸化層厚さ メタルロス 平均酸化層厚さ
mils μm mils μm mils μm mils μm
263 1.4 36 4.0 102 12.5 318 16.1 409
282® 1.8 46 4.2 107 8.0 203 13.0 330
Waspaloy 1.9 48 4.3 109 9.5 241 13.6 345
R‐41 1.2 30 4.4 112 5.8 147 12.1 307

典型的な引張特性

HAYNES® Waspaloy alloy Typical Tensile Properties 典型的な引張特性

試験温度 0.2% 耐力 極限引張強度 伸び
°F °C ksi MPa ksi MPa %
RT RT 130.4 899 189.2 1304 24.5
400 204 118.9* 820* 183.2* 1263* 24.4*
800 427 120.4* 830* 171.6* 1183* 22.6*
1000 538 117.8 812 170.4 1175 22.0
1200 649 113.8 784 164.9 1137 31.9
1400 760 102.4 706 119.2 822 32.8
1500 816 75.0 517 91.9 633 39.7
1600 871 51.8 357 66.2 456 48.0
1700 927 30.5 210 43.1 297 57.7
1800 982 19.2 132 25.2 174 57.8
2000 1093 4.5* 31* 7.4* 51* 135.5*

* 限られたデータ
試料は、1825℉ (995℃)/2 Hr./AC + 1550℉ (845℃)/4 Hr./AC + 1400℉ (760℃)/16 Hr./AC の条件で時効硬化処理。

熱安定性

HAYNES® Waspaloy alloy Thermal Stability 熱安定性

条件 試験温度 0.2% 耐力 極限引張強度 伸び
°F °C ksi MPa ksi MPa %
溶体化処理 RT RT 64.3 443 128.8 888 50.1
時効処理* RT RT 129.4 892 189.9 1309 24.9
1200 649 114 786 166.1 1145 31.8
1400 760 103.7 715 119.6 825 34.5
1500 816 75.9 523 92.1 635 40.6
1600 871 52.6 363 66.9 461 45.7
時 効 処 理 * + 1200℉(649℃)/8000h RT RT 137.8 950 197 1358 21.8
1200 649 120.7 832 171.3 1181 29.7
時 効 処 理 * + 1400℉(760℃)/8000h RT RT 115.2 794 178.2 1229 19
1400 760 80.2 553 110.3 760 32.1
時 効 処 理 * + 1500℉(816℃)/8000h RT RT 93.2 643 160.4 1106 22.2
1500 816 51.1 352 79.9 551 31.3
時 効 処 理 * + 1600℉(871℃)/8000h RT RT 66 455 115.7 798 13
1600 871 30.5 210 49.9 344 29.2

* 試料は、1825℉ (995℃)/2 Hr./AC + 1550℉ (845℃)/4 Hr./AC + 1400℉ (760℃)/16 Hr./AC の条件で時効硬化処理。

クリープおよびストレス-ラプチャー強度

時効硬化処理した* HAYNES® Waspaloy 薄板

HAYNES® Waspaloy alloy Creep and Stress-Rupture Strength HAYNES® Waspaloy Sheet, Age Hardened* クリープおよびストレス-ラプチャー強度

温度 クリープ 下記時間内に規定のクリープが生じるおおよその初期応力:
100h 1000h
°F °C % ksi MPa ksi MPa
1200 649 1 81 558 67 462
R 92 634 80 552
1300 704 1 63 434 46 317
517 57 393 57 393
1400 760 1 41 283 28 193
365 35 241 35 241
1500 816 1 25 172 16 110
221 20 138 20 138
1600 871 1 15 103 7.0 48
131 10 69 10 69
1700 927 1 6.4 44 3.0 21
69 4.8 33 4.8 33

*試料は次の条件で時効硬化処理:1825℉ (996℃)/2 Hr./AC + 1550℉ (843℃)/4 Hr./AC + 1400℉ (760℃)/16 Hr./AC

物理的特性

物理的特性 英国単位 メートル単位
密度 RT
0.296 lb/in3
RT
8.20 g/cm3
溶融温度 2425-2475°F - 1330-1360°C -
熱伝導率 400°F
88 Btu-in/ft2-hr-°F
200°C 12.6 W/m-°C
800°F
112 Btu-in/ft2-hr-°F
400°C 15.7 W/m-°C
1000°F
125 Btu-in/ft2-hr-°F
600°C 19.1 W/m-°C
1200°F
139 Btu-in/ft2-hr-°F
700°C 20.9 W/m-°C
1400°F
152 Btu-in/ft2-hr-°F
800°C 22.7 W/m-°C
1600°F
167 Btu-in/ft2-hr-°F
900°C 24.5 W/m-°C
平均熱膨張係数 70-800°F 7.6 µin/in -°F 20-500°C
13.9 x 10-6m/m·°C
70-1000°F 7.8 µin/in -°F 20-600°C
14.3 x 10-6m/m·°C
70-1200°F 8.1 µin/in -°F 20-700°C
14.8 x 10-6m/m·°C
70-1400°F 8.4 µin/in -°F 20-800°C
15.4 x 10-6m/m·°C
70-1600°F 8.9 µin/in -°F 20-900°C
16.4 x 10-6m/m·°C
70-1800°F 9.7 µin/in -°F 20-1000°C
17.8 x 10-6m/m·°C
動弾性率 70°F
30.9 x 106 psi
20°C 213 GPa
400°F
29.5 x 106 psi
200°C 204 GPa
800°F
27.7 x 106 psi
400°C 192 GPa
1000°F
26.7 x 106 psi
600°C 180 GPa
1200°F
25.6 x 106 psi
700°C 172 GPa
1400°F
24.3 x 106 psi
800°C 164 GPa
1600°F
22.9 x 106 psi
900°C 155 GPa
1800°F
21.1 x 106 psi
1000°C 146 GPa

RT= 室温

低サイクル疲労

加工

溶体化処理時の室温硬度

形態 硬度 典型的な ASTM 結晶粒サイズ
薄板 93 HRBW 5-6.5
厚板 29 HRC 5.5 – 6.5

試験した全ての試料は溶体化処理済
HRB = ロックウェル硬さ “B”
HRC = ロックウェル硬さ “C”

溶体化処理した Waspaloy の室温引張特性

形態 試験温度 0.2% 耐力 極限引張強度 伸び
°F °C ksi MPa ksi MPa %
薄板 RT RT 60.8 419 131.9 909 52.2
厚板 RT RT 87.6 604 154.7 1067 42.3

溶接

HAYNES® Waspaloy 合金の溶接については、”溶接および加工”のパンフレットに記載されている”溶接および接合のガイドライン ”をご覧ください。これらのガイドラインに加えて、Waspaloy 合金の溶接時には、追加で考慮すべき事項がいくつかあります。

HAYNES® Waspaloy 合金は析出強化型の合金で、適切な特性を引き出すには溶接後の熱処理 (PWHT) が必要です。Waspaloy 合金に対する溶接後熱処理は、二つの部分から成ります: 溶体化処理と、それに続く 3ーステップの時効処理です。詳細は、本パンフレットの”熱処理”のセクションをご覧ください。PWHTの間、ガンマプライム相 (Ni3Al,Ti) が析出し、合金はわずかに容積収縮します。これは、一般に溶体化処理温度まで加熱すると発生するひずみ時効割れを起こしやすくします。ひずみ時効割れを防ぐためには、溶体化処理温度までの加熱速度は、使用する炉の能力の範囲内でできるだけ速くすべきです。

Waspaloy 合金自体の溶接には、合致する組成の溶加金属を使用することを推奨します。Waspaloy 合金と他の合金との溶接に推奨できる溶加金属については、”Haynes Welding SmartGuide”をご利用いただくか、さらなるガイダンスについては、Haynes International にお尋ねください。

適合規格および基準

規格

HAYNES® Waspaloy 合金 (N07001)
薄板、厚板および帯板 AMS 5544
ビレット、ロッドおよびバー AMS 5704AMS 5706AMS 5707SB 637/B 637
被覆アーク溶接棒 -
裸溶接棒およびワイヤ AMS 5828
継ぎ目なしパイプおよびチューブ -
溶接パイプおよびチューブ -
継手類 -
鍛造材 AMS 5704AMS 5706AMS 5707SB 637/ B637
DIN -
その他 -

基準

HAYNES® Waspaloy 合金 (N07001)
MMPDS  6.3.8

免責事項

Haynes Internationalは、本パンフレットに記載されているデータの精度・正確性を保証するために妥当な努力を払っておりますが、データの精度、正確性、あるいは信頼性について、いかなる表明も保証もいたしません。すべてのデータは一般的な情報のみであり、設計上のアドバイスを提供するものではありません。ここに開示されている合金特性は、主にHaynes International、Inc.によって行われた作業に基づいており、場合によっては公開文献の情報によって補足されているため、そのような試験の結果のみを示すものであり、保証最大値または最小値と考えてはなりません。実際の使用条件で特定の合金を試験して特定の目的に対する適合性を判断するのはユーザーの責任です。

特定の製品に含まれる特定の元素濃度とその潜在的な健康への影響については、Haynes International、Inc.が提供する安全データシートを参照してください。特記のない限り、すべての商標はHaynes International、Inc.が所有しています。

合金パンフレット

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