主な特徴

1650℉ (899℃)以下の温度での良好な高温強度、優れた延性、および優れた溶接性

HAYNES® 263 合金 (UNS N07263)は、時効硬化型のニッケル – コバルト – クロム – モリブデン合金で、アニールされた状態で良好な時効硬化強度特性と優れた加工特性を併せ持つように特別に設計されています。HAYNES® 263 合金は、優れた中間温度での引張延性を示し、通常、ガンマプライム強化型合金に一般的なひずみ時効割れの問題がありません。高温での強度は、HAYNES® 282® 合金、Waspaloy 合金、あるいは R-41 合金ほど高くはありません。しかしながら、Waspaloy 合金および R-41 合金よりもずっと容易に成形あるいは溶接することができます。 HAYNES® 282® 合金は、HAYNES® 263 合金よりも優れた引張り、クリープ破断、および低サイクル疲労強度を示し、Waspaloy および R-41 合金よりも著しく高い加工性を有するため、多くの用途で HAYNES® 263 合金の替わりに使用されています。

HAYNES® 263 合金は通常、1650℉ (899℃)程度までの用途に使用されます。その耐酸化性は、他のガンマプライム強化型超合金と同等です。

用途

HAYNES® 263 合金は、航空用タービンエンジンおよび産業用タービンエンジン双方の用途において、様々な加工部品用途に適した特性を兼ね備えています。これらの用途には、比較的低温の燃焼器、トランジションライナ、および幾つかのリング状部品などがあります。

*この合金に関して技術的なご質問がある場合は、当社の技術支援チームにご連絡ください。

標準組成

重量 %

ニッケル: Ni 52 Balance
コバルト: Co 20
鉄: Fe 0.70 max.
クロム: Cr 20
モリブデン: Mo 6
マンガン: Mn 0.40
ケイ素: Si 0.20
アルミニウム: Al 0.60 max.
チタン: Ti 2.40 max.
炭素: C 0.06
ホウ素:: B 0.005 max.
ジルコニウム: Zr 0.04 max.
アルミニウム + チタン: Al + Ti 2.60

クリープおよびストレスラプチャー強度

時効処理*した HAYNES® 263 合金薄板

温度 クリープ 下記時間で所定のクリープを生じるおおよその初期応力
100h 1,000h
°F °C % ksi MPa ksi MPa
1200 649 1 75 517 58 400
R 77 531 64 441
1300 704 1 54 372 41 283
R 60 414 45 310
1400 760 1 37 255 25 172
R 42 290 28 193
1500 816 1 22 152 12 83
R 25 172 15 103
1600 871 1 11 76 6.0 41
R 14 97 7.4 51
1700 927 1 5.7 39 3.0 21
R 7.3 50 4.0 28

*試料の時効処理条件は 1472℉ (800℃)/8h/空冷

薄板において1000時間で1%のクリープを生じる応力の比較

1200℉(649℃)およびそれ以上の温度において、 HAYNES® 263 合金のクリープ強度は、他の
二つのガンマプライム強化型合金、HAYNES® 282® 合金および HAYNES® Waspaloy 合金より
も低いです。1300℉ (704℃)よりも高い温度において、HAYNES® 263 は HAYNES® 718 合金より
も遥かに高いクリープ強度を有しています。

熱安定性

状態 試験温度 0.2% 耐力 極限引張強さ 4D 伸び
°F °C ksi MPa ksi MPa %
溶体化処理 RT RT 58 400 120.1 828 53.3
時効処理* RT RT 93.1 642 154.2 1063 36.9
1200 649 78.2 539 132.3 912 38.6
1400 760 79.2 546 100 689 29.5
1500 816 69.3 478 77.9 537 36.9
1600 871 42.2 291 49.4 341 61.2
時効処理* + 1200℉/8000h RT RT 113.3 781 176.8 1219 28.7
1200 649 96.7** 667** 149.2** 1029** 31.3**
時効処理* + 1400℉/8000h RT RT 83.3 574 151.3 1043 24.8
1400 760 60.9 420 83.7 577 36.4
時効処理* + 1500℉/8000h RT RT 77.5 534 132.8 916 23
1500 816 42 290 58.6 404 37
時効処理* + 1600℉/8000h RT RT 54.9 379 115.7 798 37.8
1600 871 38.4 265 25.5 176 49.1

*試料の時効処理条件は、1472℉(800℃)で8時間保持したのち空冷。
** 限られたデータ

引張特性

冷間圧延した薄板、溶体化および時効処理**

試験温度 0.2% 耐力 極限引張強さ 伸び
°F °C ksi MPa ksi MPa %
RT RT 89.2 615 151.0 1041 35.8
400* 204* 82.3* 567* 139.6* 963* 40.9*
800* 427* 80.4* 554* 126.7* 874* 39.6*
1000 537 76.4 527 124.8 860 42.1
1200 649 75.2 518 130.7 901 36.9
1400 760 76.0 524 100.9 696 26.6
1500* 816* 68.2* 470* 77.3* 533* 35.2*
1600 871 43 296 50.5 348 58.1
1700 927 17.0 117 25.0 172 105.2
1800 982 12.3 85 17.9 123 95.1
2000 1093 5.5 38 9.0 62 103.6

* 限られたデータ
**ミルアニール +1472℉(800℃)/8h/空冷

冷間圧延した厚板、溶体化および時効処理**

試験温度 0.2% 耐力 極限引張強さ 伸び
°F °C ksi MPa ksi MPa %
RT RT 84.7 584 147.7 1018 30.4
400* 204* 74.5* 514* 139.6* 963* 34.2*
800* 427* 70.9* 489* 126.8* 874* 41.2*
1000 537 74.3 512 122.6 845 42.5
1200 649 71.8 495 125.8 867 32.7
1400 760 72.5 500 101.9 703 19.9
1500* 816* 64.1* 442* 81.8* 564* 22.8*
1600 871 45.2 312 53.2 367 47.5
1800 982 12.5 86 18.8 130 101.6
2000 1093 6 41 9.1 63 114.8

* 限られたデータ
**ミルアニール +1472℉(800℃)/8h/空冷

時効後の硬度

時効硬化*後の室温硬度

形態 硬度
薄板* 26 HRC
厚板* 27 HRC

*ミルアニール +1472℉(800℃)/8h/空冷
HRC = ロックウェル硬さ “C”

耐酸化性

静的酸化試験

周囲環境 : 空気流
試験時間 : 1,008 h
試験サイクル数 : 6
サイクルの長さ : 168 h
温度 : 1600, 1700, 1800 ℉ (871, 927, 982 ℃)
メタルロス = (A-B)/2
平均内部酸化深さ = C
最大内部酸化深さ = D
平均酸化層厚さ = メタルロス + 平均内部酸化深さ
最大酸化層厚さ = メタルロス + 最大内部酸化深さ

空気流中での耐酸化性比較(1,008時間)

合金 1600°F (871°C) 1700°F (927°C) 1800°F (982°C)
メタルロス 平均酸化層厚さ メタルロス 平均酸化層厚さ メタルロス 平均酸化層厚さ
mils μm mils μm mils μm mils μm mils μm mils μm
263 0.1 3 0.4 10 0.2 5 0.7 18 0.9 23 5 127
282® 0.2 5 0.6 15 0.1 3 1.1 28 0.2 5 1.8 46
R-41 0.2 5 0.8 20 0.2 5 1.5 38 0.2 5 2.9 74
Waspaloy 0.3 8 1.4 36 0.3 8 3.4 86 0.7 18 5 127

動的酸化試験(バーナーリグ試験)

バーナーリグ試験では、0.375 in x 2.5 in x 特定厚さ (9.5mm x 64mm x 特定厚さ) の複数の試料を
回転する保持装置に取付け、燃料油 (No. 1燃料油:2、No. 2燃料油:1の混合油)を約50:1の空燃
比で燃焼させてできる燃焼ガス中に曝します。燃焼ガスの流速は、マッハ数が約0.3です。試料は
30分毎に自動的に燃焼ガス流から取り出され、ファンで 500℉ (260℃) 以下に冷却された後、燃焼
ガス流中に戻されます。

合金 1600°F (871°C), 1000時間, 30分サイクル 1800°F (982°C), 1000時間, 30分サイクル
メタルロス 平均酸化層厚さ メタルロス 平均酸化層厚さ
mils μm mils μm mils μm mils μm
263 1.4 36 4 102 12.5 318 16.1 409
282® 1.8 46 4.2 107 8 203 13 330
Waspaloy 1.9 48 4.3 109 9.5 241 13.6 345
R-41 1.2 30 4.4 112 5.8 147 12.1 307

物理的特性

物理的特性 英国単位 メートル単位
密度 RT 0.302 lb/in3 RT 8.36 g/cm3
溶融温度 2370-2470°F 1300-1355°C
電気抵抗 RT 45.3 µohm-in RT 115 µohm-cm
200°F 45.8 µohm-in 100°C 116 µohm-cm
400°F 46.5 µohm-in 200°C 118 µohm-cm
600°F 47.5 µohm-in 300°C 120 µohm-cm
800°F 48.2 µohm-in 400°C 122 µohm-cm
1000°F 49.1 µohm-in 500°C 124 µohm-cm
1200°F 49.6 µohm-in 600°C 126 µohm-cm
1400°F 49.4 µohm-in 700°C 126 µohm-cm
1600°F 48.9 µohm-in 800°C 125 µohm-cm
1800°F 48.9 µohm-in 900°C 124 µohm-cm
1000°C 124 µohm-cm
熱伝導率 RT 81 Btu-in/ft2-hr-°F RT 11.7 W/m-°C
200°F 89 Btu-in/ft2-hr-°F 100°C 13.0 W/m-°C
400°F 103 Btu-in/ft2-hr-°F 200°C 14.7 W/m-°C
600°F 115 Btu-in/ft2-hr-°F 300°C 16.3 W/m-°C
800°F 128 Btu-in/ft2-hr-°F 400°C 18.0 W/m-°C
1000°F 141 Btu-in/ft2-hr-°F 500°C 19.7 W/m-°C
1200°F 154 Btu-in/ft2-hr-°F 600°C 21.4 W/m-°C
1400°F 167 Btu-in/ft2-hr-°F 700°C 23.0 W/m-°C
1600°F 182 Btu-in/ft2-hr-°F 800°C 24.7 W/m-°C
1800°F 195 Btu-in/ft2-hr-°F 900°C 26.8 W/m-°C
1000°C 28.5 W/m-°C
平均熱膨張係数 70-200°F 6.2 µin/in-°F 25-100°C 11.1 µm/m- °C
70-400°F 6.7 µin/in-°F 25-200°C 12.1 µm/m- °C
70-600°F 7.1 µin/in-°F 25-300°C 12.7 µm/m- °C
70-800°F 7.2 µin/in-°F 25-400°C 12.8 µm/m- °C
70-1000°F 7.6 µin/in-°F 25-500°C 13.6 µm/m- °C
70-1200°F 7.9 µin/in-°F 25-600°C 13.9 µm/m- °C
70-1400°F 8.3 µin/in-°F 25-700°C 14.7 µm/m- °C
70-1600°F 9.0 µin/in-°F 25-800°C 15.4 µm/m- °C
70-1800°F 9.9 µin/in-°F 25-900°C 17.0 µm/m- °C
25-1000°C 18.1 µm/m- °C
動弾性率 RT 32.1 x 106 psi RT 221 GPa
200°F 31.7 x 106 psi 100°C 219 GPa
400°F 30.7 x 106 psi 200°C 212 GPa
600°F 29.6 x 106 psi 300°C 205 GPa
800°F 28.5 x 106 psi 400°C 198 GPa
1000°F 27.5 x 106 psi 500°C 192 GPa
1200°F 26.2 x 106 psi 600°C 185 GPa
1400°F 24.8 x 106 psi 700°C 176 GPa
1600°F 22.9 x 106 psi 800°C 166 GPa
1800°F 21.1 x 106 psi 900°C 154 GPa
1000°C 143 GPa

RT= 室温

低サイクル疲労

加工および溶接

加工

HAYNES® 263合金は、優れた成形および溶接特性を有しています。この合金の熱間加工温度範 囲は、おおよそ 1750~2150°F (954~1177°C)です。この合金はアニールした状態で優れた延性を 有しており、それによって冷間加工で成形することもできます。複雑な部品の成形作業に対して は、1900~2000°F (1038~1093°C) の温度範囲での中間アニールが必要な場合があります。熱 間あるいは冷間加工した部品は全て、特性を最適なバランス状態に戻すためにアニールして急 冷しなければなりません。

溶接

HAYNES® 263合金の溶接については、”溶接および加工”のパンフレットをご覧ください。パンフ レットに記載してあるガイドラインに加えて、263合金の溶接には、追加で考慮すべきことが幾つ かあります。

HAYNES® 263合金は析出強化型合金で、適切な特性を引き出すためには、溶接後の熱処理 (PWHT) が必要です。263合金に対する溶接後の熱処理は、二つの部分から成ります: 溶体化処 理と、それに引き続いて行われる適切な時効処理です。詳細は、ここに記載されています。PWHT の間、ガンマプライム相 (Ni3Al,Ti) が析出し、合金はわずかに体積収縮します。これにより、溶体 化処理温度までの加熱で通常に発生する、ひずみ時効割れが起こり易くなります。ひずみ時効 割れを防止するために、溶体化処理温度に達するまでの加熱速度は、使用される炉の能力内で 可能な限り速くしなければなりません。

263合金同士の溶接には、同一組成の溶加金属を推奨します。263合金と他の合金との溶接に推 奨できる溶加金属については、”溶接および加工”のパンフレットをご覧になるか、更なるガイダン スが必要な場合は、Haynes International にご相談下さい。

溶体化処理した 263合金の室温引張特性

極限引張強さ 降伏強さ 伸び
ksi MPa ksi MPa %
薄板 116.9 806 49.1 339 57.5
厚板 115.6 797 47.7 329 59.3

溶体化処理した 263合金の室温硬度

形態 硬度 典型的な ASTM 結晶粒度
薄板 98 HRBW 5 – 7.5
厚板 31 HRC 4 – 6

全ての試料は、溶体化処理した状態で試験

熱処理

特記されていない限り、HAYNES® 263鍛造合金は、溶体化処理した状態で提供されます。この 合金は、通常、最適な特性にするために 1900~2150°F (1038~1177°C)の範囲で溶体化処理さ れ、急速空冷あるいは水冷されます。溶体化処理に引き続いて、1475°F (802°C) で8時間かけ て時効処理され、空冷されます。

適合規格

規格

HAYNES® 263 合 金
(N07263)
薄板、厚板および帯板 AMS 5872
ビレット、ロッドおよび棒 AMS 5886
被覆アーク溶接棒
裸溶接棒およびワイヤ AMS 5966
継目なしパイプおよびチューブ
溶接パイプおよびチューブ
継手類
鍛造材 AMS 5886
DIN
その他

免責事項

Haynes Internationalは、本パンフレットに記載されているデータの精度・正確性を保証するために妥当な努力を払っておりますが、データの精度、正確性、あるいは信頼性について、いかなる表明も保証もいたしません。すべてのデータは一般的な情報のみであり、設計上のアドバイスを提供するものではありません。ここに開示されている合金特性は、主にHaynes International、Inc.によって行われた作業に基づいており、場合によっては公開文献の情報によって補足されているため、そのような試験の結果のみを示すものであり、保証最大値または最小値と考えてはなりません。実際の使用条件で特定の合金を試験して特定の目的に対する適合性を判断するのはユーザーの責任です。

特定の製品に含まれる特定の元素濃度とその潜在的な健康への影響については、Haynes International、Inc.が提供する安全データシートを参照してください。特記のない限り、すべての商標はHaynes International、Inc.が所有しています。

合金パンフレット

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